「・・・ッ!」
私は、声もなく身体を起き上がらせた。
「・・・・・・また、あの夢か・・・」
額に滲む汗を拭いながら、私は独りごちた。
まだ興奮はおさまらずに、肩で息をしている自分に気付き、何とか平静を取り戻そうと軽い深呼吸をした。
すると、少しずつだが呼吸が整って、やがていつも通りの自分の呼吸に戻る。
そして、再び見た悪夢のような夢を振り返りながら、軽い嫌悪感を覚える。
忘れ去りたい過去であり、忘れてはならない出来事。
今までの自分の人生の中で、一番の失態だったと言えるだろう。
いや、もしかしたらこれからの出来事の中でも、一番の失態だったと言えるかもしれない。
自分の存在意義は、その出来事が起こる前は確実に明確であり、価値のあるものだと思っている。
だが、その出来事が起こった後の自分の存在意義は、ないに等しいかもしれない。
いや、まだそうと決まったワケではない。
これからが、その存在意義を見出すための戦いなのだ。
自分がやらなければ、誰がやるというのだ。
他の誰かではダメなのだ。
自分の手で直接、そして確実に成さなければならないことは、分かっている。
だが、分かっていても簡単に出来る事ではないだろう。
何であれ、立ち上がった私は簡易テントから外にでて、心地よい空気を吸いながら星空の下を何となしに歩き出した。
私の名前は、アグリアス・オークス。
ルザリア聖近衛騎士団所属の騎士だ。
今は、訳あって王女護衛の任務を受けている。
みなは、私のことを『女の身でありながら』などと言うことが多いが、正直、男だろうと女だろうと王女を護ることに性別は関係ないと思っている。
それに、女だからと言って甘く見てもらっては困る。
こう見えても、剣の腕にはそれなりの自信がある。
この『聖騎士』の称号を受けて、それ程経っていないとはいえ、私なりに腕を磨いてきたつもりだ。
今まで鍛錬を怠ったことは、一度もない。
それもこれもみな、王女のことを想ってのことだ。
オヴェリア・アトカーシャ。
言わずと知れた、アトカーシャ家の王女である。
今亡き、国王オムドリア三世が養女として王家に迎い入れた、腹違いの妹。
だが、例え養女とは言え、王家の血筋を持つ女性だ。
そのオヴェリア様を護る事は、私にとっては誇りなのだ。
私が初めてオヴェリア様とお会いした時、あの高貴さの中に漂う、彼女の本当に姿を見た気がしたのだ。
一介の騎士でしかなかった私に、オヴェリア様は優しい言葉をかけて下さった。
今でも、あの言葉は忘れられない。
「あなたも騎士ならば、国や国王のことだけではなく、国民全て、そしてなにより世界中の人全てのことを想ってください。
自分が、自分の国のためだけに存在しているのではないと言う事を忘れずに」
一国の騎士として、自国のことを想うのは当然のことだ。
しかし、オヴェリア様は自国のことはもちろんのこと、この世界の全ての人のことを考えていらっしゃるのだ。
正直、私は感動した。
この方は、こんな小さな身体をしながらも、そこまで大きなことを考えていらっしゃるのだと。
その時から、私はこの人に全てを託そうと決めたのだ。
この方に一生忠誠を誓う事を胸に誓ったのだ。
だが――
そのオヴェリア様を誘拐し、自分の都合のためだけに、オヴェリア様の生命を奪おうと企むラーグ公。
その悪事に自ら協力し、オヴェリア様にその手をかけようとしているガフガリオン。
グレバドス教からの信望の厚かったはずの、ドラクロワ枢機卿の裏切り。
そのドラクロワ枢機卿が、元々ラーグ公との内通があったことに気が付かなかった、私の不覚。
さらには、ライオネル城から逃げ出す際に、不覚にもオヴェリア様だけが捕らわれてしまった、私の失態。
そして、その時に自分だけでもという希望を胸に、何とか脱出したのだが、追っ手に阻まれてしまったという私の判断ミス。
全てにおいて、私の騎士としての未熟さゆえに起きてしまったことだろう。
現在オヴェリア様は、そんな様々な理由によってライオネル城に囚われてしまっている。
だが今は、追っ手に阻まれた時に私の前に現れてくれた、ラムザがいる。
彼は、ベオルブ家の人間でありながらその計画の内容を全く知らず、それどころかその計画を阻止せんとしているのだ。
まさか、今までともに王女の護衛をしてくれていたラムザがベオルブ家の人間だったとは、夢にも思っていなかった真実だったが、今更彼のことを疑ったりはしない。
今となっては、彼が一番信用できる人間だと言えるだろう。
ともに協力して、オヴェリア様を必ずお救いするのだ。
『騎士』として、一度与えられた任務は必ず全うする。
自ら犯した失敗は、自分の力で補わなければならないのが『騎士』というもの。
だが、オヴェリア様をお救いしたいというこの気持ちは、ただ単に任務だと言うだけではない。
一度忠誠を誓った方をお護りするのが、本来『騎士』のあるべき姿なのではないだろうか。
私はそう思っている。
少なくても、私はそうでありたい。
そして、あの日オヴェリア様に誓ったあの言葉。
「必ず私が護って見せる」
私はオヴェリア様を、全身全霊をかけて、何が何でもお救いする。
それが、この私の存在意義そのものなのだから。
満天の星を見つめながら、私は一点の星を見つめていた。
数多の星の中で、一番の輝きを放っている星だった。
だがそんな星も、決して強いとは言えない。
いつその灯火が消え去るのかは、分からない。
周りの波に飲み込まれないように、精一杯の光を放っている。
「オヴェリア様・・・」
星を見つめながら、知らぬうちにその名を呼んでいる自分に気がついた。
しかし、その呼びかけに応えるものは、もちろんそこにはいない。
北の方角――すなわち、ライオネル城のあるその方角に目をやりながら、決心する。
知らぬ間に強く握られている右手に、さらに精一杯の力を込める。
そして、彼女の顔を浮かべて、悲しい気持ちになる自分に気付く。
込み上げる気持ちを堪えながら、私はさらに決意を露にする。
オヴェリア様にとって、王家の血筋に縛られずに、自由に生きる事が、本当の幸せなのではないだろうか。
決して弱音は出さないが、彼女のことをみていれば分かる事だ。
強い意志を持っておられるが、どこか悲しげなあの瞳。
そんなオヴェリア様のことを思うと、いてもたってもいられなくなってくる。
これ以上、オヴェリア様を不幸にしてたまるか。
これ以上、オヴェリア様を利用されてたまるか。
誰かが、オヴェリア様をお救いせねばならないのだ。
誰かが、オヴェリア様を護って差し上げなければならないのだ。
ならば・・・。
ならば、私が護って見せる!
どうだったでしょうか?
私の初めてのFF小説であり、アグリアスのことを書いた小説は。
一応、全くFFT、アグリアスを知らない人でも少しは理解していただけるように書いたつもりです。
が、たぶんあまり理解されていないと思います。
正直、私には版権モノを書く自信がありませんでした。
しかし、どうせ版権モノを書くのならば、一番好きなキャラのことを書きたい、この思いはずっとありました。
そして、無謀にもその想いを実行に移してしまったと言うワケです。
はっきり言って、あまり納得のいっていない内容です。
オリジナルな要素がかなり含まれていますが、最後の一言だけは劇中のセリフそのままです。
そもそも、私が本当にアグリアスのことを理解しきっているのか、と言う事が一番の心配です。
好きだからといって、その人のことを全て理解している人はいないと思います。
でも、その人になりきって、その人のことを考えれば、少しはその人に近づけるのではないだろうか?
そんな気持ちで書いてみました。
しかし、私一人の力では決して書けなかった作品だと思っています。
協力してくださった皆様、そしてアグリアスを想って下さっている方々、本当にありがとうございます。
これからも、出来る事ならばアグリアス小説を書いてみたいと思っているので、その時は読んでくださると光栄です。
それでは、最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
(誕生日企画で書いておきながら、誕生日のことは全く書いていなかったことに後で気付いた私でした・・・)
おっと、最後にアグリアス誕生日おめでとう!
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