雲行きが悪い…嵐になりそうだ。  

そうでなくても早くここを経ちたいのだが無論そうもいかない。  

オヴェリア様はいまだ、聖堂内の聖印に向かい祈りを捧げている。  

表では私の部下であるアリシアとラヴィアンがチョコボ馬車を用意しているはずだ。  

ラーグ公配下の北天騎士団から派遣された護衛隊もすでに到着しており、出発を今か今かと心待ちにしている。  

にしても公も公である。

いくらゴルターナ公との摂政問題が緊迫化しているとはいえ、王女の護衛にたったの三人(それも傭兵上がりの無礼者)しか、ここオーボンヌ修道院に送ってこないとは…。

「さ、出発いたしますよ、オヴェリア様」

 とうとう私も時を惜しみだし、オヴェリア様を促した。

「もう少し待って…アグリアス」

 オヴェリア様は振り返ることも、祈りをやめることもなくただそう答えた。

……無理もない。

10年以上王家を離れ過ごされた修道院を急遽離れなくてはいけないのだ。

名残惜しい訳がない。

私はオヴェリア様の小さな背中を見て、私が初めてオヴェリア様と会った日のことをふと思い出した…

 

五年前 王都ルザリア

「フゥ…」

 私、アグリアス・オークスは当時、ルザリア騎士養成学院を卒業し、王城で騎士見習いとして励んでいた。

私が女ながら騎士になろうとした理由はただ一つ。

正義に忠ずるためである。

しかし現実とはかくも厳しいものだ。

もう40年も隣国オルダリーアと続いている戦乱はいまだ止む気配もなく、国内は疲弊しきっている。

私のような女でも騎士になれるご時世となっているのだ。

国もついには民間からも兵を募り、今や3000人にまで膨れあがった骸騎士団なる団体までできあがっている。

人々は誰もが北天 南天両騎士団を勇者として崇めている。

天騎士バルバネス殿に雷神シドはもちろんのこと、若き聖騎士ザルバッグ殿や銀の貴公子エルムドア侯などは今や子供達の憧れの的。

私も彼らみたくなりたくて騎士を目指したということもある。

しかし、いくら勇者が大勢いたとして40年も戦争は続いている。

最近ではライオネルのドラクロワ枢機卿でさえ聖印騎士団、ライオネル騎士団を動員しランベリーで戦っている。

挙げ句の果てには教皇猊下直属の神殿騎士団でさえ、団員募集の要項から年齢制限の項目を消したと聞く。

もはや騎士の未来――ひいてはイヴァリースの未来が明るくないのは誰の目から見ても明らかであった。

民はもはや勝利など望んでいない。彼らが望む物はただ一つ。

この戦争の終結だ。

「どうかしましたか?」

 王城の長い廊下を歩いている中、私は知らずしてため息を漏らしていた。

私の小姓役であるアリシアが(彼女もまた女剣士である)心配そうに私の顔を覗き込んできた。

「いや、なんでもない」

 国民全員が抱えている不安を愚痴ってもどうしようもない。

そんなことは仮にもアトカーシャ王家直属近衛騎士見習いである私にはイヤと言うほどわかっている。

「……嬉しくないんですか?

 明日は待ちに待ったアグリアス様の御誕生日。

 教会の洗礼を受け、剣を陛下より賜る日でしょう?」

「あぁ…それはわかっている。そのことは誇りだ!」

 見習い…というのもそれも今日までだ。

明日から私は教会の洗礼を受け、聖剣技を振るう一近衛騎士となる。

それは嬉しいことである。

 しかし、私は思う…何を守る近衛騎士なのか?と…

王家か?国か?人々か?伝統?名誉?家??神か???

どれも当てはまり、かつ、どれも当てはまらない気がする。

しかし、私は明日騎士になる。

それは絶対だった。

もちろん、これは個人的な悩みにしか過ぎない。

騎士は主君に絶対の忠誠を誓い、正義の名の下に剣を振るわねばならない。

そこには「何を」とか「何故に」とか言う余地があってはならない。

騎士とは…そういうもの。

それが私の選んだ道なのだ。

そんな葛藤を抱いている時、私は貴女に会ったのです。

眠れぬ巨蟹の月夜、もうすぐ本格的な夏が訪れるというのに、少し冷ややかな風が吹く、そんな夜の城庭にてでした。

「うん?」

 私が噴水の近くまでやって来ると、先客がすでにいた。

白い煌びやかな寝装束に、長い金髪が対照的でとても美しい…そんな少女が噴水の石の上に座って月を見上げていた。

「……誰?」

 その少女は私に気付き、驚いたような声を上げた。

私もついうっかり見とれてしまっていたようで、声を掛けられようやく我に戻った。

私は近くまで歩み寄り、片膝を地に付け、頭を下げた。

「失礼!近衛騎士見習いのアグリアス・オークスでございます」

 私はこの人に頭を下げる理由があった。

なぜならばこの人こそ、偉大なるアトカーシャの血を引く姫君であられるからだ。

現国王デナムンダW世陛下の御息女、オヴェリア姫だ。

「見習い?……あっねじゃああなたが明日洗礼を受ける…」

「畏れ多くも」

 洗礼の儀にはオヴェリア様も参加する。私の事を知っていてもおかしくはない。

ただこうして面と向かって会うのは当然初めてのことである。

「そうなの、あなたが… 面を上げてちょうだい、アグリアス」

 姫は何故か消え入りそうな声をしていた。

私は立ち上がり姫の顔を窺ってみたが、やはりどこか寂しげに見えた。

そう、まるで今の自分と同じように。

「……さしでがましいようですが…オヴェリア様。なぜこのような所に?」

 就寝の時間はとっくに過ぎているし、本人もそのような姿。

しかし兵がいない。オヴェリアがお忍びでここに来ているのは明白だった。

するとオヴェリアは、噴水の水の中に手を沈ませながらつぶやくようにして答えた。

「別に…ただ少し月が美しかったから…」

 オヴェリアは月を再度見上げた。

「……私、多分もう少ししたらこの城を離れることになると思うの」

 女同士だからか、姫は自分の気持ちをたかだか見習い騎士である私に話し始めて下さった。

「知ってるでしょ。お兄様の子がまた亡くなられて…

腹違いとはいえど妹だった私はお兄様の養女として王家に迎えられた。

けど、ルーヴェリア様のお腹にはまだ一人…もしその子が王子だったら私は…

そう考えたら、私、何だか寂しくなっちゃって…」

「……オヴェリア様?」

 不思議な気持ち…だった。

崖に咲く、一輪の菫(スミレ)を見た心境のようだった。

守ってやらねば…いや……

守ってあげたい……そんな衝動にとらわれていた。

 明日の洗礼が終われば、この人はまた修道院にお戻りになる。

そのまま二度と、ここには帰ってこないかも知れない。

このまま歴史の中にひっそりと消えてゆくかも知れない。

そう思うと…妙に心が寂しく、熱くなって…何かが込み上げてきた。

「あなた…近衛騎士になるのよね…

……ここを…守ってちょうだいね。私がいなくても、ここはあるから…

王家はあるのだから…守って…ちょうだいね…」

「オ…オヴェリア…様?」

 静かな月夜…だった。

そして翌日、私は教会の洗礼を受け近衛騎士となり、あなたはオーボンヌへ帰られた。

再会は一ヶ月前、私が元老院に命じられオーボンヌに派遣された時だった。

 あの日と同じ、どこか肌寒い風の吹く雲一つ無い快晴の空の下でだった。

「本日より、オヴェリア様の身辺警護を担当することになりました、アトカーシャ家直属近衛騎士が一人、ホーリーナイト、アグリアス・オークスです」

 貴女様はこの五ヶ月で見違えるように美しくなられた。

そして私は強くなった! 今日この日のために……

あの月の夜に交わした約束を守るために。

私は近衛騎士…王家を守り、王家の敵を滅ぼす騎士……

その忠誠は他でもない、オヴェリア様! 貴女様へ捧げます。

貴女様の為に戦い、貴女様の為に死ぬ。

それが、私の正義!

それが、私の騎士道!!

 迷いはなかった。

元老院に今回の命を拝命された時、私は全てを神と聖アジョラに感謝した。

 そして私は今、私のたった一人の主君にようやく巡り会えたのだった……。

 

「すでに護衛隊は到着しているのですよ」

 だからどうした?オヴェリア様は私が守る。

他の何が私を妨げようとも! それが本音であった。

「姫様…アグリアス殿を困らせてはなりませぬ。さ、お急ぎを」

 私の誘いに続き、修道院長のシモン殿がオヴェリア様を催促しようとしたそのときだ。

「まだかよ、もう小一時間にもなるンだぞ」

と、入り口の方からど太い、乱暴な声が響くと同時に、その声の主と二人の若い戦士が入ってやって来た。

これが例の護衛隊達である。

「無礼であろう、ガフガリオン殿。王女の御前ぞ」

 そう…こともあろうにラーグ公が遣わしたのはかつての東天騎士団分隊長の一人、黒い鎧の剣士、ガフ・ガフガリオンだったのだ。

話によるとかなりイカれた男のようでなるほど品も礼もあったものではない。

しかし…腕は立つ。悔しいが私と同じかそれ以上だろう。

「これでいいかい、アグリアスさんよぉ?こちらとしては一刻を争うンだ」

 後ろの二人は膝を突いたというのに、ガフガリオン殿は会釈をしただけであった。

「…誇り高き北天騎士団にも貴公のように失敬な輩がいるのだな」

 一連のガフガリオン殿の態度が納得いかなく、私は皮肉をたっぷり込めこの男に立場をわからせようとした。

しかし、どうやら逆効果であったようで、この男は私に逆に挑発的返答を浴びせてきた。

「辺境の警備隊長殿には十分すぎるほど紳士的なつもりだがね…それにオレ達は北天騎士団に雇われた傭兵だ。

あんたに礼をつくす義理はないンだ」

「なんだと、無礼な口を!」

 さすがに、私もこの発言には剣を抜く寸前にまで自尊心を傷つけられた訳だが、間一髪でそれを回避できたのは、私の後ろでオヴェリア様が立ち上がったことが原因だった。

「わかりました。参りましょう」

 姫様がそうおっしゃられた瞬間、私は自分の未熟さを恥じた。

結果として、オヴェリア様の意志を貫かせることが出来なかったのだから…

「どうかご無事で」

「シモン先生も」

 姫とシモン殿が手を取り合い、最後の別れを交わしていたまさにその時である。

「アグリアス様……て、敵が!」

 と、入り口の方から私の部下の一人が息も絶え絶えに礼拝堂に雪崩れ込んできたのだ。

一堂の顔色が変わり、空気も一変した。

「ゴルターナ公の手の者か!?」

 シモン殿が手を貸し与える中、そう騎士に尋ねたのだが私はその答えを聞くより早く、礼拝堂を飛び出していた。

ゴルターナ公はそこまでして戦争を起こしたいのか?!

この目で確かめる必要があった。

 そして私は修道院の扉をぶち開け、雷鳴轟く嵐の外へと剣を抜き飛び出した。

守るために闘う!!

そのために……


紅黄蒼瑠璃殿からの投稿小説です。

アグリアス誕生日企画参加作品です。

アグリアスの騎士道についてのお話です。

劇中の物語展開の中に、オリジナルを混ぜ込んだ作品になっています。

きちんと、アグリアスの誕生日の日のことを話しに織り込んでいるところが流石です。

劇中では語られなかったことを、独自に語っているところもいい感じです。

アグリアス誕生日おめでとう。

投稿、どうもありがとうございました。


 

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