プロローグ

 

2231年。
 世界は良い方向に変わっていると言っても、ほぼ差し支えのない状態だった。 2176年にカーヴィング・ティン博士が『バイオガン』と呼ばれる銃の初号機を発明する前よりは。
 その昔、愚かな人類たちは数多の戦争を繰り返し自分達の世界を汚していった。 大きな戦争はもちろんのこと、国同士の戦争もあれば国内での内乱も数え切れないほど世の中を騒がせた。
 2100年には、その戦争が世界全土に広がり、過去にも何度か行われた愚かな世界大戦が勃発した。 その愚かな戦争の所為で、大半の人類は失われ、今まで築き上げてきた文化も失われつつあった。 だが、いつの時代も平和を願い、立ち上がるものは存在していた。 その平和を願うものたちの地道な行いによって、少しずつではあるが世界中に平和を願う心が芽生えて行ったのである。
そしてついに、世の中に武器と呼ぶに相応しい代物が次第になくなってきたのが、2151年に世界的に結ばれた『世界完全平和条約』以降である。 その内容は文字通り、世界を完全に平和にする条約――即ち、世界から戦争を消し去ろうとする条約である。 それと同時に重火器類の開発が断念されて、世界から核兵器などの類も消え去った。
 それから十数年の間は人類が共に協力をして世界に戦争のない、平和な時が流れて行った。 失われた人口も、文明も少しずつではあるが回復の兆しを見せてきたのである。しかし、こう言った条約は破るためにあるようなもので、所詮は表面的な平和が流れて行ったに過ぎない。 一般的には公表されていないだけで、裏の世界では着々とその条約を破るべく計画が開始されていたのである。
 2174年。 反世界完全平和条約組織として名乗りを挙げたのは、ハインツ・ジャマー率いる代々軍人の家系を持つジャマー家の私兵たちである。ジャマー家は、この条約こそが世の中を乱れた世界にする原因であり、世界に確実なる平和を取り戻すためには、争いが必要だと主張した。禁止されていた重火器を財力に物を言わせて生産、複合して凄まじいほどの数の兵器を作り上げた。完全平和条約を自ら破っておきながら、自ら作り上げた兵器を掲げて平和を主張するジャマー家。 こんな矛盾がどこの世界に存在するのだろうか?
 このまま、黙ってジャマー家によって世界に戦争を振りまくワケにはいかない。 しかし、完全平和を唱えているだけのことはあって、彼ら――『世界完全平和条約』協議会にはそれに対抗する術を持ち合わせていなかった。 武器を持たないなどと言いながらも、自己防衛のための兵器ですら持ち合わせているようなマネは一切しないのが彼らだったのだ。 誰しもが、こんな事態になることも想定していただろうに、完全平和とは実に難しいものである。 このままでは、ジャマー家によって世の中に再び戦争がもたらされてしまう。
 そこで登場したのが『バイオガン』である。
ジャマー家に不穏な動きが目立ち始めてからすぐに、カーヴィング・ティン博士は世界各地に『ラボラトリー』と呼ばれる研究施設を建設し、『バイオ』の力を使った特殊武器の開発を進めていたのである。 完全平和条約に反するのではないかと言う意見も飛び交ったのだが、この際ジャマー家を止められるのならば止むを得ないと言う意見が上層部の考えだった。
「バイオガンは、世界に革命を与えるだろう。このバイオガンこそが、我々の求めていた兵器なのである!」
 彼の名言と共にバイオガンの初号機は完成する。そして、それを量産化させることは容易いことだった。 各地に点在するラボラトリーと共に密かに建造されていた、バイオガン生産工場にて、大量のバイオガンを世の中に排出して行ったのである。
 バイオガンとは、一昔に存在した『銃』と呼ばれるものに酷似したものに『バイオ』の力を溜めて、放出するものだった。 特徴として、撃った後に『音』はせず『薬莢』も残らない上に、『バイオ』の力によってほとんど外傷はなく、身体の中にダメージを与える。 最大の特徴は、普通の弾丸のようにダメージを与える他、睡眠効果・麻痺などの効果を得られる。 それ故に、旧時代の『弾丸』と呼ばれるものを込めた『銃』などとは、比較にならないぐらいの脅威を持ち合わせていた。 手に取ることの出来る『固体』よりも、決して手には取ることの出来ない『気体』の方が無限の力を持ち合わせていると言うことなのだろうか。
 この問答無用の兵器開発によって、ジャマー家の反乱は完全に断ち切られることになる。 党首であるハインツを追い詰めるまでに、僅か数ヶ月しか要さなかったと言う話だ。そして、そのハインツは名言と共にこの世から去る。
「これでは、どちらが真の平和を求めていたのかが分からないな。笑わせてくれる」
これが彼の最後の言葉だったと言う記録が、世の中に出回ることはなかった。ハインツ一人を悪役に仕立てて、ジャマー家を無差別虐殺して世界を制圧した彼らの行いは、決して一般人に公表されることはないだろう。
 こうして世界に平和が訪れた時、カーヴィング博士は世界的英雄となっていた。彼の立案、開発によって完成させた『バイオガン』は、世界に平和をもたらした奇跡の兵器なのである。
2181年に『バイオガン連盟』が結成されてからは、バイオガンの研究に興味を示すものが次々に現れたと言う。バイオガンの真の恐ろしさを知らぬ人々は、取り付かれたようにその研究に没頭していった。年々このバイオガンの開発は進んで行き、今では射程を考えないでも良いオールレンジタイプのバイオガンまでも開発されていると言う。
2213年には、ついにそれらが一般化されているのだから恐ろしい。 威力や使い勝手こそオリジナル版よりは軽装化されているものの、旧時代の銃よりも威力は絶大であることは変わりない。 こうして、知らぬ間に当たり前のように世の中へ重火器が出回る世界が確立していったのである。 この時すでに、『世界完全平和条約』の存在を熟知しているものは微々たる存在に過ぎなかった。 あまつさえ、この条約を仮初めの平和を唱えた反逆者と主張するものもいるのだと言う。
 人類とは、こうして同じ過ちを繰り返す愚かな存在なのだろうか。近年はこのバイオガンを扱った犯罪が増加しつつあるのだが、それを止めようと努力するのは地域の小さな警察隊のみ。その威力を知っていれば分かることだが、高々街の治安を僅かに支えているだけの警察隊の手に負える犯罪ばかりではない。
 そんな乱れた世界に怒りを覚え、ついにはバイオガン連盟に反旗を翻す組織が生まれたのである。それが、B−Fog(ビーフォッグ)と呼ばれるバイオガン連盟反対組織だった。彼らは、一切バイオガンの類を使用せずに連盟に対抗していった。流石に、平和条約を掲げても勝ち目はないのは分かりきっていることなので、彼らは彼らなりに対抗手段を見出していく。そこで目をつけたのは、言うまでもなく旧時代の銃なのであった。幸いなことに、世界からなくなったはずの重火器を蘇らせてくれた悪の組織が存在してくれたので、それを寄せ集めればそれなりの量になってくれる。今では生産することは愚か、一般市場に出回ることもままならないこの銃を少しでも多くかき集めてバイオガン同盟に対抗する彼らの活躍は、少しずつではあるが一般の民衆の目や耳に入るのである。
 彼らの活躍により、少しでも世界から愚かな考えを持つものがいなくなることを願って。真の平和など訪れることは有り得ないのかもしれないが、少なくてもバイオガンをこの世から消し去らない限りは、真の平和への一歩を踏み出すことは不可能だろう。彼らB−Fogの危険な挑戦が今、始まろうとしていた――。

☆用語集☆
『銃関係』・・・バイオ、バイオガン
『組織関連』・・・世界完全平和条約連盟、バイオガン連盟、反世界完全平和条約組織、B−Fog

   


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