プロローグ2

 

 いつしか、忘れ去られた記憶が目覚める時と言うのは、それ相応のキッカケが必要とされることが多い。
記憶喪失などがそれに当たるワケなのだが、自ら忘れたいと思っている記憶と言うものも、それなりのキッカケによって無意識のうちに目覚めてしまうことがある。
誰しも、そんな自ら忘れ去りたい記憶と言うものを持っていると言うが、そんな記憶に限って心のどこかにずっと生き続けているものである。
ひょんなキッカケによってその記憶が目覚めた時、それは人を不幸にしてしまう要因になることは否めないことなのだろうか。
人は、そんな嫌な記憶を心の奥底に忍ばせて、いつ目覚めるか分からない恐怖にその身を委ねているのだろうか・・・。

 外では騒がしい程に人の群れが、高層ビルの立った街並みをそれぞれの足取りで歩いている。この季節には少し寒いぐらいの短い丈のスカートを履いた女性。妙に寒そうに厚手のコートとマフラーを身に纏った、どう見てもダルマのように丸々と太った中年の男性。はたまた、寒さをしのぐように互いに腕を絡ませあい暑苦しいぐらいに寄り添ったカップルなど。街を行く人の群れのほとんどは、これから訪れる冬に向けて準備をしていた。
 そんな街並みから少し離れたビルの合間で、この季節には似つかわしくない格好をした人物がそこに立っていた。迷彩色を基調とした服を着ている男は、コートなどの類は一切つけず、上は半袖のTシャツ一枚と言った有り得ない格好をしていた。背丈はそれほど高くないのだが、それなりに鍛えられた身体は頼もしいと言っても過言ではない肉付きをしていた。右手に持った黒い鉄の塊から感じられるヒンヤリとした感触は、黒いグローブ越しからも、この季節には嫌味なほど冷たく感じられる。
「だから銃なんて似合わねーもんなんか持つなって言ったろ!」
 男は言いながら、アスファルトに倒れている少女を軽く抱き起こすが少女は反応してこない。それどころか、少女の身体が右手に持っている黒い鉄の塊――銃と同じように冷たくなっていくのを感じ取っていた。しっかりと閉じられた少女の双眸からは、あの眩いほどの緑を窺うことは出来なかった。それでも、男の頭には少女の輝いた緑色の瞳が焼き付いて離れない。
いつも微笑んでいたあの瞳。いつも自分を優しく見守っていたあの瞳。いつも目の前ばかりを見ていたあの瞳・・・。
「なろ! 何のための防弾チョッキだよ! こんなんじゃぁ、着てても全く意味ねーじゃねーかっ!!」
 冷たくなる少女をアスファルトに寝かせながら、少し厚手の防弾チョッキを着ている少女の右胸に手を当てる。ほどよく膨らんだ胸には、真っ赤な薔薇の模様――いや、鮮血が滲んでいた。右胸を直撃した弾丸は、少女にこの世のものとは思えないほど綺麗な薔薇の花束をプレゼントしたのである。
「人の生命とは儚いものだな・・・」
 そんな男と少女を嘲笑うかのように、一人の黒ずくめの男が立っていた。地面についてしまうのではないかと言うぐらいの長さの黒いコートを羽織ったその男は、右手にアサルトライフルを携えている。その銃で少女を射抜いたと言う事は言うまでもないことである。
「言ってくれんじゃねーか。オレを誰だと思ってんだ。今の言葉、後悔させてやんぜ!」
 少女の亡骸を見下ろしながら、男は手にした大型の銃を黒ずくめの男に向ける。あとはトリガーを引けば、男の心臓を撃ち抜くことは確実。だが、不思議と男がそのトリガーを引くことはなかった。頭では目の前の黒ずくめを撃ち抜くことしか考えていないと言うのに、身体が言う事を利いてくれない。
そんなことをしているうちにも、目の前の黒ずくめは自分に背中を向けてその場から立ち去ろうとしていた。背中を向けられてしまったため、すっかり照準もずれてしまっているのだが、それを修正するにもやはり身体が動いてくれない。何とかこの状況を打破するためにも、声だけでも出そうと口を動かそうとするが、なんと言うことか、口までもが動いてくれないではないか。そんなことをしているうちに、黒ずくめの男は視界から消えてしまったのである。まるで夜霧の中に消え去るようにその姿を闇の中へと雲隠れしたのだった――。

☆用語集☆
『銃関係』・・・アサルトライフル

   


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