プロローグ6
「にしても」
 苛々感は否めなかった。だが、それにしても、この状況は想定外であるとしか言いようがない。
「いや、でも、そもそも、今回はオレに断りなく着いてきたのが悪いんじゃねーか。そうだよな」
 まるで独り言のようだが、独り言ではない。だがやはり、結局は独り言なのかもしれない。
「つーことで、この寝袋はオレが使うから、てめーはそこで横になってろ。テントに入れてもらえるだけ、ありがたいと思え」
 言いながら、足元にある寝袋を掴もうとしゃがみこむが、先程までそこにあったはずの物がなくなっている。疑問に思い辺りを探してみると、そにそれはあった。
「って、何勝手に人の寝袋使ってんだ! オレを誰だと思ってんだ!」
「もぅ〜、夜なんだから静かにしてよ、お兄さん? それとも、まだ眠くないとか? あ、それって、もしかしてあたしと遊びたい、とか? そうなんでしょぉ〜。も〜ぅ、照れちゃって、可愛いんだから、お兄さんったら」
 小柄な少女は、大き目の寝袋の中に身体を埋め、顔だけを出してモソモソと動いている。
「誰がてめーなんかと。オレは子供に興味はねーっての。そもそも、山に来て自分の寝袋も用意してねーなんて、どう言うつもりだったんだ。仕事上、野宿になるかもしんねーことだって、十分に考えられたはずだろが。仕事を軽く見てると、そのうち痛い目にあうぞ?」
 だが、返事は来ない。それどころか、先程までこちらを向いていた寝袋は反対側を向いている。要するに、寝たフリでもしていると言うことだった。
「都合の良い時だけ無視しやがって。あんな、オレは本気で言ってんだ。いつでも傍に誰かがいるって思ってんのは間違いだかんな。一人しかいない時には人に頼らねーで、一人で何でも出来るようにしとかないと、マジで後悔することになんぞ?」
 小さい寝息が聞こえる。覗き込んで見ると、どうやら本当に寝てしまったようである。どこまで聞いていたか分からないが、ほとんど話を聞いてはいなかったのだろう。だが、彼が言った言葉は紛れもない事実であり、彼の本心でもある。いつでも自分が一緒にいられると言う保障はないのだ。
「くそ。オレを誰だと思ってんだ。本気でキレっぞ。……にしても、寒くなって来たな。なろ!」
 一人で呟いていても、まさに独り言になってしまうだけである。彼は仕方がなく、予備で用意しておいた毛布に包まって眠る事にしたのだった――。


   

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