ミッション1『廃ビルに潜む強盗』
第四回

「そこで、君たちL地区支部に応援を要請したと言うワケだ」
 
そこでアサカの説明は終わったようだった。口調こそ上官のそれと一緒で命令口調に近かったが、説明された内容については大体飲み込むことが出来た。どうやらこのアサカと言う特佐官は、人間的にもそれなりに出来ているようではある。
 
そして、アサカの話した内容をアドなりに整理してみることにした。まず、見ての通り目の前にある『建設工事中』のビルに、近くのバイオガン販売店を襲ったナゾの強盗が立てこもっているらしい。本来ならばこう言った事件に対処するのは警察隊の仕事なのだろうが、ことバイオガンに関しての事件には関与したがらないのが警察隊だったりする。そこで、B−Fogに仕事を要請したと言ったところだろうか。なぜ特佐官自らが現場に立ち会っているのかは分からなかったが、大方部下たちの見張りと言ったところか。アサカが所属するI地区支部と、協力を要請されたU地区支部の共同戦線と言うことらしいのだが、第一陣としてU地区4人と、I地区2人がそれぞれ突入したのだと言う。それが今から120分前。
 そして今から80分前にその6人のGPSの反応が停止したらしい。
停止したと言っても全ての反応が消えたワケではなく、いくつかの反応は残っているのでそれを頼りに敵の位置をある程度特定出来るだろう。10階建てのこのビルの、大体4階ぐらいでほとんどの反応が切れたらしいのでその階に多くの人間が潜んでいる可能性が高い。敵の正確な人数は不明だが、10とも20ともとれる人数が潜んでいることを想定しても大袈裟ではないと言う。数回の銃撃の音がしたために――正確には、バイオガンは銃撃の音がしないのでこちらの誰かが放った銃の音だ――それなりに敵の人数は減っていることを願いたいところだ。そもそも、敵の人数がそれなりの数だと言うのに、たった6人だけで突入しようと言う考え自体が素人に近い考えだと思ったのだが、既に後のマツリである。思わぬ失策の所為で、人数が足りなくなったためにアドたちL地区支部の人間に援軍を要請したと言うのが正直な話なのだろう。L地区に転属させられて、一番始めにバイオガン関係の仕事を受け持つとは、幸先が知れたものではない。
 
実のところ、アドがこのB−Fogの一員となったのはほんの1ヶ月前のことで、組織のことはあまり把握していなかったりするのだが、現在の組織状況は結成当時に比べるとかなり質が落ちていると言っても過言ではないだろう。『バイオガン連盟反対組織』などと格好のいい名前をつけて、始めはその名前の通り連盟に反対運動を示していたのだが、今となっては街の警察隊とさして変わらぬ仕事をしているのが現状である。先にも説明した通り、警察隊はことバイオガンに関しての事件には関与したがらないので、自然とこう言った仕事が多いということは確かなのだが。嫌な言い方をしてしまえば、警察隊の厄介払いをさせられていると言った感じか。
「それでは、早速君たちにはビルに突入してもらうワケだが、あとの指揮はI地区支部の班長に任せてある。簡単な作戦の説明があると思うので、きちんと把握して指示に従うように」
 
どうにもアドの好きになれない性格をしている特佐官は、淡々と話を続けるだけである。当然、アドの胸中のことなど欠片も知る由もなく、彼の言いたいことなど理解し得るはずもない。
「と言うワケで・・・オレがI地区支部の班長をやっているディリー・サナダだ」
 
そう言いながら、細いサングラスをかけた男はアドに握手を求めて来たが、拒む理由も見つからなかったのでとりあえず握手を交わしておく。一応、班長代理としての責務はきっちりと果たしておかなければならないだろう。
「今聞いたと思うけど、オレはアドミニスタァだ。アドって呼んでくれて構わねー。んで、早速突入すんだろーけど、どうやって突入する? なんか作戦とか考えてんだろ?」
 
簡単に自己紹介を済ませると――そもそも、たった今アサカにも紹介した所なのだから、いちいち説明する意味もないのだが――早速仕事の話を繰り出すアドである。本人としては、何だかんだ言っても早く仕事をしたいのである。
「今ライラック特佐官からも言われたように、我々はこのビルに立てこもった強盗を捕まえるために、6人で突入するワケだ。6人で固まっていても目立つだけだから、二手に分けて行動することを提案するが、問題はないな?」
 
ディリーがそう説明するが特に反対意見を持つ者もなく、皆が無言でディリーの方に視線を向けるだけである。それを肯定と判断したディリーは、無言で頷き続きを話し出す。
「突入組だが、オレとカッツ、バーンの3人と、レオンブルー班長代理とアンティラス、そしてこちらの控えメンバーのルーファスの3人。こちらはオレが指揮を取るから、そちらはレオンブルー班長代理、キミが指揮を取ってくれ。代理とは言え、班長を任されているワケだから大丈夫だとは思うがな」
 アサカは特佐官なので全体の指揮をするのには間違いないのだが、突入作戦自体の指揮はこのディリーが行うことになっていた。救援を呼んだのもこのI地区支部なのだし、班長代理であるアドよりも班長であるディリーの方が指揮を取るにあたって適切な人物なので、当然と言えば当然のことだった。そもそも、アドが全員に指示を下すなどやりたくもないことなので、アド本人としてはこちら方が納得出来ると言うもの。そんなことを考えながら、アドは突入メンバーについて頭の中で考えを巡らせてみる。向こうのメンバーは実力こそ直接目で見たワケではないから分からないものの、メンツだけを考えれば特に問題ないように思える。だが、こちらはリスティをかばいながらの戦闘になりそうな予感が背筋を凍らせるような思いだったが、控えのルーファスと言う男の存在も多少気になるところだった。その男が少しでも腕の立つような男ならば、自分一人でリスティに集中する必要がないからである。その疑問を口にしようとしたが、突入する前からそんな心配をする意味もないと判断したアドは、即座にその考えを頭から消し去った。自分が今、何を考えていたかを悟られないように平静を装いながら、アドは軽く肩をすくませて見せる。
「・・・たいした自信なことだ。その甘い考えをなくさない限り、痛い目に合うのは自分だと言うことを忘れるなよ」
 そんなアドの態度が気に食わなかったのか、
細いサングラスを直しながらディリーがトゲのある言葉を投げてくる。そんなディリーの口調は、自分に実力があると言わんばかりの言葉であることは間違いない。そちらの方こそ、あまり自信過剰になっていると痛い目に合うぞ、とでも言いたそうな表情でショウが独り言のようにつぶやいた。
「けっ、偉そうなんだな、どこの班長さんもよぉ」
 
そんなショウのグチに対して、ディリーは軽く彼の方を窺っただけで特に何も言ってはこなかった。
「んで、二手に分かれて別々に行動し、敵さんを手際よく捕まえるって寸法なんだろ?」
 
こちらもショウの言葉を無視して、アドがディリーの代わりに続きを言葉にしてみる。どうやら極端な違いはなかったらしく、ディリーはゆっくりと頷く。手際よく事が進んでくれているので、どことなく気持ちの良さそうな表情だった。
「我々の位置は、このGPSナビ経由でライラック特佐官のいるところで確認出来るようになっている。作戦開始前にGPSへのデータ転送と、弾薬の補給をしておいた方がいいな。パラベラムは自由に使っても構わないが、それ以外の弾丸は用意していない。悪いが、自分の物を使ってくれ。もし銃を持っていないんだったら、I地区支部のを貸すが、大丈夫だな?」
 テンポ良くディリーが作戦の説明をしていると、不意にリスティが右手をあげながら意見を言ってきた。その表情は、まるで学校で教師に質問をする生徒のようだ。
「じーぴーえすナビってなにー? あたしそんなの持ってないよ?」
 
リスティの突拍子のない意見に対して、ディリーが眉間にシワを寄せながら訝しがる。ディリーは、世にも不思議なものでも見たかのような表情で、確認するようにリスティに聞き返してきた。
「GPSナビを知らないのか? 今の時代、腕時計型のGPSをつけているのは当たり前だと思ったんだが・・・? オレの考えが甘いのか?」
 
頭を左右に振りながらリスティの無知を身に染みる思いで受け入れようとするが、どうしても受け入れられないらしい。そんなディリーに対して、面倒臭そうに溜息をつきながらアドが口を挟んできた。
「わりーな。こいつの言うことはあんま気にしねーでくれ。あとでオレが言っとくから、話を進めてくれて構わねーぜ」
 
アドはリスティの腕を掴みながら、それを自分の背中に隠すように押しのける。そして、余計な動きが出来ないように、器用にも背中に両手を回してリスティを自分の身体に密着させるように自由を封じる。何かを言いたそうにジタバタしようとするリスティだったが、アドの力によって完全に身体の自由が奪われてしまったので思ったことが空回りしてしまっているようだ。本当ならば大声を出せばそれで済むはずなのだろうが、今はアドから抜け出すことに専念してしまっているために、そんなことは頭にはないようだ。だが、次の瞬間にはリスティは身体の自由を取り戻していた。なぜならば、ディリーの言葉にアドが反応してリスティを取り押さえる手を緩めたからである。
「・・・って、今なんて言った! 9パラしかねーのかよ! 45コルトはねーのか・・・くそっ、だからソーコムはあんま使いたくねーんだよな・・・。こんな時はルガーが一番なんだよ・・・」
 
ワケの分からない専門用語を言いながら、アドは恨めしそうにリスティの方に視線を送るが、当のリスティには何のことだか理解出来ていないようだった。不思議そうな表情でそれを見ているリスティは、すでに先程言いたかったことを忘れてしまっているようである。
「アドの相棒はソコムってか? 少しぐらいなら、オレも45コルト持ってるぜ? 
班長代理就任祝いに、タダで少しだけ分けてやるよ。ありがたく使ってくれたまえ」
 
ショウは皮肉を込めながら、どこからともなく取り出した弾丸をアドに手渡す。このショウ、実は弾丸マニアであり、何種類もの弾丸を常に持ち歩いていると言う通称『歩く弾薬庫』と呼ばれている男なのである。アドの言う45コルトとは『45ACP(オートマチック・コルト・ピストル)』のことを示し、アドが愛用している『SOCOM MK23(ソーコムマーク23)』用の弾丸のことで、ディリーの口から出た『パラベラム』と言う弾丸よりも大きいサイズの代物で、その分威力も大きいと言うワケだ。だが、当然価格もそれなりにするために、貧乏性のアドはあまり多い弾数を常時していないと言うワケだ。何であれ、ショウの言い草が気に食わなかったが、人の好意は素直に受けることにしているアドは、ありがたく弾丸を調達しておく。
「わりーな。今度なんか奢ってやんぜ」
 
決して人に奢れるほどの金を持っているワケではないのだが、社交辞令と言うヤツだろうか。アドの言葉にも、ショウは特に何かを期待したワケでもなく軽く頷くだけである。
「なんかさー、あの二人って変なところで気が合うわよねー」
 
そんな二人のやり取りを見ながらリスティが一人で感心しているようだったが、確かに彼女の言う通りなのかもしれない。性格上、あまり馬の合いそうな感じはしないのだが、変なところで男の友情なるものが芽生えてしまったのだろうか。
「男には男の事情って言うのがあるんですよ。あんまり気にしない方がいいんじゃない?」
 
二人と少し距離を置いていたギュゼフが、頭を左右に振りながらリスティに制止の声を掛ける。どうやら、ギュゼフ自身はあまりこの二人と関わりたくないようであった。その表情を見れば一目瞭然である。いかにも自分は無関係ですとでも言いたそうなその表情は、リスティから見ても感情が表に出ていることを確認することが出来る。
「・・・いい加減、作戦に入りたいんだがいいか?」
 
L地区支部の漫才とも言えるようなトークを傍観していたI地区支部班長は、サングラス越しに冷たい視線を送りながら忠告してきた。当然と言えば当然の叱りに、アドたちは我に返ったようにサングラスの男の方へと視線を送った。
「・・・注意する点はいくつかあるが一番重要なのが、相手はバイオガンを所持していると言うことだ。店から奪ったものを所持しているが、それほど威力はないだろう。用心に越したことはないワケだが・・・このメンツなら大丈夫だな? あとは各人に任せるが、我々の目的は盗まれたバイオガンの回収と、ビルに潜んでいる強盗を捕まえることだ。あくまでも捕まえるのであって、殺すんじゃないぞ? 以上だ。これより作戦を開始する!」
 
軽い皮肉を込めながらも、ディリーは必要なことだけを言ってからサングラスを直す仕草で説明を締めくくった。

☆用語集☆
『銃関係』・・・45ACP
『銃名称』・・・ SOCOM MK23
『地名関係』・・・U地区

      


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