ミッション1『廃ビルに潜む強盗』
第七回

「どこを狙ってるんですか。当てなきゃ、相手を倒せませんよ」
 素人丸出しの射撃をする強盗を正面に、ギュゼフは見事な射撃の腕で強盗に痛い一撃をお見舞いしてやる。両手に拳銃を持ち射撃する腕は、華麗と表現しても過言ではないほど正確な射撃である。
「・・・これで粗方片付いたか?」
 同じように、すぐ隣ではショウが強盗の一人を倒して勝利ポーズをしているところだった。銃を指で回転させて、それをそのまま懐のホルスターに仕舞い込む動作は、どう見ても格好つけているとしか思えない余計な動作である。そんな動作を見ながら、ディリーが指摘するような言葉を投げかけてきた。
「射撃に見た目なんて必要ないんじゃないのか? ようは、腕がいいか悪いかの問題だと思うんだがな・・・」
 ディリーもたった今敵を倒し終わったらしく、素早い動作でマガジンを新しいものに交換したようだった。
ギュゼフのひょんな作戦により、上手いこと敵をエレベータの前におびき寄せることに成功したショウたちは、4階まで一気にかけあがり困惑する強盗に奇襲攻撃を仕掛けた。『バイオガン感知器』の騒音のお陰で、ショウたちが階段から登ってくることは気付かれないで済んだために、面白いほど簡単にことが運んだのだ。直接その目で確認したワケではないので分からないが、エレベータの扉が開いて、待ち伏せしていた強盗は突然の騒音に驚いたことだろう。その驚いて困惑しているところを、突然背後から射撃されたのであれば溜まったものではない。強盗犯は、何の抵抗も出来ぬまま地面に這いつくばることになったのだ。
 もちろん、ビル突入前にディリーに言われた『決して殺すんじゃない』と言う忠告にもきちんと従っている。射撃の腕には自信のあるショウとギュゼフは、上手い具合に強盗の腕を狙い撃ち銃を撃てなくしたあとに、気絶させてある。万が一起き上がってきた時の事を考えて、バイオガンは全て破壊済みであることも忘れてはいけない。奪われたバイオガンなのだから返さなければいけないと思ったショウだったのだが、ディリーが破壊するように命令してきたのでそれを守っただけなのだが。もともと、バイオガンを世の中からなくすために生まれた組織がB−Fogなのだから、この行為は当然と言えば当然のことなのかもしれないが。正直な話、ショウにはそんなことはどうでもいいことであるのだが。ようは、銃を撃てる場があれば何でもいいのである。
「問題なく敵を倒したんだからよ、そんなこと気にしてるんじゃねぇよ。それより、どうするよ? ここに居たら、さっきの音を聴きつけて新手がくるかもしれねぇぜ?」
 ディリーの言葉を目ざとく思いながらも、ショウはきちんと次の行動のことまで頭に入れてある。当然と言えば当然のことなのだが、これは自信と経験がなければ簡単に出来るような行動ではないことは言うまでもない。
「盗まれたバイオガンは合計で19挺だ。それを全て破壊して強盗を捕まえる。それが我々の仕事だ。とりあえず、今倒した人数をライラック特佐官に報告する必要があるな」
 言いながら、ディリーは倒した強盗の数と所持していたバイオガンの数を数え、それを腕時計型GPSナビ経由でアサカのところまで転送する。こうすることによって、本部で待機しているアサカが敵の全ての数を把握することが可能であり、少しでも的確な指示を送ることが出来ると言うワケである。
「今4人倒したから、あと15人ですか? 何だかかなり労力のいる仕事なこと・・・」
 バイオガンの数で敵の数を簡単に割り出すと、頭を振りながらうなだれた表情を浮かべるギュゼフ。もともと特殊機動班ではないギュゼフは、体力的にあまり長い時間の仕事を好まないのである。もちろん、デスクワークをやるよりは遥かにマシなことなのだが、さすがに疲れるような仕事はしたくないと言うのが素直な気持ちだ。
「甘いな。バイオガンの数だけ敵がいるとは限らない。人数分以上盗んだのかもしれないし、もしかしたら全員分盗んだんじゃないかもしれない。とにかく、油断しないように19挺のバイオガンを破壊すればいいだけの話だ」
 ギュゼフの独り言ともつかぬ言葉にも、いちいち突っかかってくるディリーである。だが、ギュゼフは特に気にした様子もなく、次の戦闘に備えて銃弾の補給作業を行う。マガジンを捨ててそのまま交換してもいいのだが、それではマガジンを後で回収するか諦めるかしなければいけないので、どっちにしても本人にとっては痛手となる。アドほどではないが、低い給料であまりいい生活をしていないギュゼフにとっては、貴重なマガジンなのだ。こんな無駄な仕事で大事な資源を捨てるワケにはいかないのである。
「どうでもいいけどよ、バイオガン感知器って破壊されたバイオガンには反応しないんだな? 初めて知ったぜ」
 先程まで耳障りなぐらい大きな音を発していた『バイオガン感知器』の音がパッタリとやんだことに気付いたショウは、独り言のように口にする。別に同意や返事を期待していたワケではなかったのだが、その言葉に反応するものはいなかった。それどころか、ショウの言葉を無視するような感じにディリーが口を開く。
「よし、この調子でバイオガンを破壊していくぞ・・・いや、待て。何かが来る・・・?」
 言いながら上の階への階段の方に向かって歩き出そうとしたディリーだったが、何かに気付いたように突然その足を止めてしまった。それと同時に、手にした銃を構えて近くにある柱の影に姿を隠したところだった。
「何をしている。お前達も早く気配を消して隠れろ」
 そんなディリーの行動を不思議そうに見ているショウとギュゼフに向かって、ディリーはサングラス越しに睨みつけてくる。
「・・・どうしたって言うんだよ。ネズミでも発見したってか?」
 辺りには未だに人の気配がしないことを確認したショウが冗談混じりに言葉を発するが、どうみてもディリーを小バカにした言い方にしか聞こえない。だが、流石にディリーの表情を見ればそれなりな事態だと気付いたギュゼフが、素直な言葉と共に近くの柱に姿を隠そうとする。
「冗談でそんなこと言っててもしょうがないでしょう。ほら、カツもとっとと隠れた方がいいんじゃない?」
 言われて、ショウは小さく肩をすくませてからギュゼフの隠れる柱へ一緒に姿を隠す。もちろん、手にはしっかりと相棒のコルトパイソンが握られていた。
「けっ。人の気配なんて全くしねぇのによ、一体何が近づいて来たって言うんだ」
 ショウはグチりながら柱の影から顔を出して向こうにいるディリーに視線を送ってみるが、ディリーは全くこちらを見てはいなかった。銃を構えながら、本格的な射撃を行うかのような体勢に入っている。
「凡人より耳が良いってことでしょ? さすがは班長をしてるだけのことはあるってことですよ」
 ギュゼフは軽い冗談を込めながら、ショウを言い聞かせるように彼の肩に手を置く。ギュゼフの方がショウよりも6センチほど身長が高いために、微妙に偉そうな態度に感じてしまうが、決して彼にはそんなつもりはないしショウとてそんなことを感じたことは今までに一度もない。そんなギュゼフの言葉に、流石のショウも素直に従うことにした。どっちにしろ、何者かが現れた時のことを考えれば隠れているに越したことはないワケなのだから。
「・・・驚いたな。ホントにネズミが来やがったみたいだぜ」
 しばらくの間柱の影に待機していると、突然耳障りな大きな音がエレベータの方から発せられる。この音は当然聞き覚えがあって、『バイオガン感知器』がバイオガンに反応して発している音である。
その音に多少顔を歪めながらもショウは口の端を曲げて、まるで舌なめずりでもするかのように嬉しそうな言葉を口にする。
「本番のベルが鳴ったってワケかい? さっきは奇襲作戦だったから、微妙に楽しめなかったからな。今度は思い切りやらせてもらうとしようぜ」
 言いながらショウは、フロアに姿を現した強盗を柱の影から確認しつつ攻撃のチャンスをじっくりと待つことにする。数は、予想通り3人。全員バイオガンを所持しているようだった。強盗たちは、突然発せられた大きな音に動揺しながらも警戒しつつ辺りを見回しているようだった。そして、一人の強盗がエレベータに設置してある『バイオガン感知器』の存在に気付くと、仲間をエレベータのところまで呼び集めてから、確認しあうように頷いて邪魔な機械を破壊する。それと同時に、耳障りな音がすぐさま消え去るが、ショウの耳には未だにその余韻が残っていて耳がキンキンする。それを多少ウザったく思いながらも、強盗に出来た隙を狙うべく懐から一つの弾丸を取り出してそれを手のひらで転がして弄ぶ。
「さぁ、きちんと台本通りに動いてくれよ」
 まるで映画の監督のようなことを口走りながら、手にした弾丸を適当な方向に向かって投げつける。すると、静かになったフロアに弾丸が床を転がる音が響き渡った。突然の音に強盗たちは驚いたようにそちらへ視線を向けると、一斉に手にしたバイオガンを音がした方に向かって構える。ショウは、素直に台本通りに動いた有能な役者に向かって、 弾丸を投げた反対の方から姿を現して強盗の一人をロックオンする。
「台本通りに動いてくれて、監督が大喜びだぜ!」
 ロックオンと共に、わざと声を出しながら強盗にこちらの存在をアピールして、今の音は囮だと言う事を親切にも報せてやる。だが、強盗がショウの存在に気付いた時にはすでに遅く、トリガーを引いたショウの銃は強力なマグナム弾を3発、ターゲットに向かって真っ直ぐに噴き出していた。そして、ショウの狙いは正確に強盗の右肩に弾丸を打ち込む。それと同時に、その強盗は悲鳴を上げながら手にしたバイオガンを景気良く地面に落としてくれる。だが、残念ながら全弾命中とは行かず一人の強盗には見事に命中するも、残りの二発は上手く命中してくれなかったようだ。一発は完全に避けられ、もう一発は正確な弾道だったために、命中とはいかないものの肩口をかする程度には及んでくれたようである。しかし、弾丸がかする程度ならば射撃には何ら問題ないらしく、その強盗と上手く弾に当たらなかった強盗は、
突然現れた侵入者に向かってバイオガンの手痛い一撃をお見舞いするべく射撃をする。しかし、狙いを全く定めていなかった上に、上手い具合に地面を転がるショウにそれを命中させることは出来なかった。いくら目に見えないバイオガンの弾道と言えども、銃口より直線上にしか射撃されないので避けようと思えば簡単に避けられるものである。
「相手は一人だけとは限りませんよ。音だけで簡単に反応していては、敵を撃てませんよ!」
 強盗がショウに向かって射撃したのとほぼ同時ぐらいに、今度は強盗の死角から現れたギュゼフが射撃をお見舞いする。意識は完全にショウの方に行っていたために、先程ショウが弾丸を投げて小さな音がした方から敵が現れるなどとは思わなかったのだろう。完全に不意をつかれた強盗は、虚を喰らったような顔をしながら地面に膝を付く。
「大人を舐めるんじゃないぞ!」
 言いながら、一人の強盗が肩の訴えてくる痛みを何とか堪えてギュゼフに向かって発砲する。だが、狙いが定まっていないために近くの柱に命中するだけである。しかし、バイオガンの威力は驚くことなかれ。柱に命中したバイオガンは、辺りに怪しい霧を発しながらその余韻を残す。バイオガンにも様々な効力のものがあるのだが、おそらく今のは催眠効果か何かが付加されているものなのだろう。例えその弾道を読んで避けたとしても、何かに当たったと同時に催眠効果を発生させることになるので、迂闊に近くで避けるワケにはいかないような危険な代物である。
「大人だと思うんだったら、もっと冷静に周りを見た方がいいな。それだから甘いって言うんだ」
 バイオガンを放った強盗はその後のことは全く頭に入れていなかったらしく、背後から近づいたディリーの存在には気がつかなかったらしい。突然目の前に現れたディリーに驚愕の顔を浮かべたと同時に、地面に寝転んでいた。当然殺すワケにはいかないので、ディリーは手痛い一撃を腹に食らわせてやったと言うワケである。それと同時に、地面に転がっている3挺のバイオガンを破壊する。
「絶妙な演技だったみたいだな。これなら一回でOKが出るかもしれないな、ってか?」
 何も問題なく強盗3人を片付けて、ショウがディリーのところに歩み寄りながらつぶやくようにそんなことを言う。これが映画の撮影シーンだったならば、一度カットが入っているところなのだろうか。しかし、これは映画でもなんでもなく実戦以外の何者でもないのだが、それをタダの遊びのように片付けてしまうところはショウらしいところなのだろうか。
「こんな撮影だったら、私は何度もやりたくないですよ。あんまり危険なことはしたくないんだから」
 ショウの言葉に苦笑を浮かべながらギュゼフが肩をすくめるが、恐らくこれは本音なのだろう。今回は運良く無傷でことを済ませることが出来たが、間違ってもバイオガンの餌食にでもなったらただ事では済まないことを良く知っているからこその感想と言えるだろう。
「よし、3人に3挺。順調に事が運んでくれそうだな」
 そんなショウとギュゼフのやりとりには全く応じようとはせずに、ディリーは強盗3人を縄でしばりながらGPSでのデータ転送を行う。 ギュゼフとショウのふたりの強行作戦により、上手い具合に強盗を仕留めることに成功しているワケだが、ディリーは素直に喜んでいそうにない。そもそも、班長であるディリーが何も指示をしていないのに、勝手に動いているふたりを不服とさえ思っているようである。だが、そのことに関しては敢えて何も言おうとはせずに、ディリーは目先のことだけを考えているようである。

「さて、いい加減上の階に進むぞ。当然、まだあの音に気付いたヤツもいるだろうから、警戒を怠らないように」
 言いながら、ディリーは階段の方に向かってゆっくりと歩みを進める。自分達のことなど全く無視と言った感じの
ディリーの背中を見送りながら、ショウは軽く両手を広げて肩をすくませると、ギュゼフと目配せをしてから無言で班長の後を着いて行くことにする。何だかんだ文句を言いたいことはあるのだが、この場は班長と言うことで素直に命令を聞かなければいけないのが悩ましい問題である。だが、この仕事さえ終わってしまえば、現場の班長とは顔を合わせる機会はないと言っても差し支えないだろう。基本的に地区間の共同戦線はあまり行わないB−Fogなので、今回の仕事は色々な意味で珍しいことと言えよう。まぁ、ショウにとっては知ったことではないのだが。
 何はともあれ、ショウたち正面突破組は特に問題なく上の階へと進むのであった。

☆用語集☆
『銃関係』・・・マガジン

      


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