ミッション1『廃ビルに潜む強盗』
第十三回


 無事に合流したアド、ショウ、ディリーの3人は9階にたどり着いていた。8階から9階へは、違う階段を経由して上に進むことが出来た。9階はそのまま無視をして最上階である10階に向かおうとした3人だったが、9階がただのだだっ広い空間だったと言うことから、何となく足を止めてその中に入って行く。だが、その行為が不味かったらしく、9階にはまんまと待ち伏せをした男が一人佇んでいた。
「待っていた」
 右耳に真っ赤なピアスをした男はそうつぶやくと、手にしたバイオガンをちらつかせながらアドたちを出迎える。何もない部屋なので、そのまま何もなかったことにして引き返してもよかったのだが、この男をこのままここに放置しておくのは
危険な香りがする。
「けっ。男に待っていられても、俺は嬉しくねぇんだけどな」
 ショウはいつものようにグチりながら、部屋のほぼ真ん中にたたずんでいる男を睨みつける。もちろん、いつでも銃を抜けるように警戒することも忘れない。そんなショウを横目に、ディリーは聞き分けのない部下を諭すような口調でうなだれる。
「全く・・・お前は、戦いを何だと思っているんだ」
  今にも肩をすくませそうなセリフを吐き出すと、ディリーも警戒しながらジリジリと男との間合いを取っていた。男が持っているバイオガンの性能が分からない以上、あまり余計な動きをするのは危険である。市販で売られているものを強奪したのだから、それほど性能が良いとも思えなかったが、どんな時でも油断は禁物と言うことだ。
「ま、律儀に待っててくれたんだ。相手してやるってのが礼儀ってもんだろ」
 アドは、含み笑いのようなものを浮かべながら男の動きを探ることにする。見た目からするとアドと同じぐらいか、それとも少し上ぐらいの年齢。どうみても暗いイメージしか浮かんでこないその男は、ある種の怪しいオーラを発していた。部屋に入った時にも感じたのだが、やはりこの男からは危険な香りしか漂ってこない。
「アンダーソン」
 アドたちが臨戦態勢に入ると、男は腕時計を見つめながらポツリとそんなことを口にする。一瞬なんのことだか理解出来なかったが、恐らく自分の名前を言ったのだろう。アドは、警戒しながら怪しいオーラを発する男――アンダーソンに向かって毒を吐く。
「自己紹介ってか。ホントに律儀な性格みてーだな。・・・オレはアドミニスタァだ。アドって呼んでくれ」
 これから戦う相手の名前など知ったところで何も意味はないのだが、答えない理由も特に見当たらなかったので、アドはいつも通りに簡単に自分の名前を口にする。他の二人は名前を言うつもりはないらしく、無言でアンダーソンを睨んでいるだけである。
「んじゃあ、はじめっとすっか!」
 そんなアドの言葉が引き金となり、3−1の銃撃戦が始まった。
まず一番初めに射撃をしたのはショウだった。ほぼアドの言葉と同時ぐらいに、愛用のコルトパイソンに手を掛けてアンダーソン目掛けてトリガーを引く。ほぼ正確に狙ったはずのショウの射撃だったのだが、アンダーソンは軽くステップを踏んでそれを避け、何事もなかったかのように部屋の中を軽く走り回る。そんな走るアンダーソンを追うようにアドの射撃が繰り出されたのだが、それもことごとく避けてしまう。
「中々やるじゃねぇかい。でも、避けてるだけじゃダメなんだぜ!」
 自分たちの射撃を全て避けているが、全く反撃をして来ないアンダーソンに対して、ショウは苦笑を浮かべながら再び射撃を繰り出す。だが、そんなショウの自信たっぷりの射撃にも、アンダーソンは全く動じる様子を見せなかった。それどころか、どこに弾が飛んでくるのかが分かっているかのように、軽いステップで弾を避けてしまうのである。 しかし、今回も先程と同じく弾を避けるだけで反撃をして来る様子はない。
「そう言うお前だって、当てなければ意味がないだろうが」
 結果的に二度の射撃を外したショウに対して、未だ何もしていないディリーが口を挟んでくる。銃は手にしているものの、ディリーは射撃をする様子を見せない。心なしか、動きも鈍いような気がしてたまらない。口では厳しいことを言っているが、恐らく先程やられた時のダメージが残っているのだろう。何しろ、目の近くをバイオガンがかすめたのだ。ここに立っていられること自体、奇跡と言っても過言ではない。ここは、敵の的にならないようにしてもらうことを祈るだけである。
「ま、簡単にやられちまっても面白くねーんだけどな!」
 言いながらアドも再び射撃を行うが、それも簡単に避けられてしまう。しかも、敵の動きを予測してリード射撃したにも関わらず、簡単に避けられてしまう。まさに、射撃される場所を未来予測しているようにしか思えなかった。しかも、未だに反撃をしてくる様子を見せないアンダーソンは、どう見ても可笑しい。アドはそんなことを思いながらも、上手い具合に部屋の中を動き回った所為か、3人でアンダーソンを囲むような形に持ち込むことに成功していた。これならば、逃げまわれる場所が限られてくるので優位に戦いを進めることが出来る。
「所詮はこんなものか・・・」
 自分に不利な状況になったにも関わらず、アンダーソンは余裕を装っていた。しかも、バイオガンを手にしているものの射撃をする気配は全くと言ってない。一瞬だけ、『バイオエネルギー』が補充されていないのではないかと言うことがアドの頭をよぎったのだが、そう言った感じは見受けられない。何だかは分からないが、とにかく余裕そうな態度が気に食わない。
「いくらバイオガンを持ってっからって、この状況でんなこと言えんのかよ。それとも、オレたちには敵わないってことが端っから分かったってか?」
 確かに、バイオガンを持っていると言う事はかなりの強みになるだろう。未だに射撃をしてこないのでその性能が分からないと言うことも確かなことである。しかし、それを考えたとしても所詮は市販のバイオガンである。直接軍用に作られたものならばその脅威は計り知れないが、目の前のバイオガンがそれほどまでの威力を持っているとは到底思えない。アドもそれほどバイオガンに詳しいワケではないから大きなことを言えないとは言え、今アンダーソンが持っているバイオガンが市販のものかそうでないのかぐらいは見分けがつくというもの。
「ふふふ。今更気付いても、遅い」
 だが、アドの冷やかしに対してアンダーソンは、こともあろうに頷いてきたのである。ようするに、アドが言った通りと言うことを意味する返事をしてきたのだ。ますます目の前の男の考えが分からなくなったアドは、小さく肩をすくめながら声を絞り出す。
「あんな・・・人をバカにすんのもいい加減にしとけ。所詮強盗なんだから、とっとと捕まれっての!」
 言って、アドが数発の射撃をする。至近距離と言うこともあってか、今度はアンダーソンの左肩をかすめることに成功する。だが、かすめただけであって、命中したワケではない。アドとて、射撃にはそれなりの自信があるので、こんな至近距離から避けられるとなっては驚かざるを得ない。ついで、ショウがワザと的を外すようにアンダーソンに向かって射撃を行うも、アンダーソンは全く動くことなくそれをやり過ごす。まさに、超能力か何かで弾道を読んでいるようにしか思えなかった。
「けっ・・・的を全てお見通しってワケかい。とんだ実力の持ち主だぜ」
 ショウは自分のした行為を鼻で笑いながら、アンダーソンを絶賛する。しかし、当のアンダーソンは皮肉にしか聞こえないショウの絶賛に耳を傾けようとはしなかった。それどころか、アンダーソンの集中は自分の腕時計に行っているようである。先程も何かを気にするように腕時計を見つめていたのだが、何があると言うのだろうか。アドは、強盗である彼が時間を気にする理由と言うのを頭に思い浮かべてみる。すると、いくつかの候補の中で一番妥当――いや、確信と言えるだろうか――な理由にたどり着いてしまったのだ。
「こいつ、時間稼ぎ――」
 だが、アドが最後まで言い終える前に、それは起きていた。どこからか、空気を切り裂くような音が聞こえてきたのである。アドよりも先にそのことを察したディリーは、そんなアドの言葉に続くように言葉を吐き出していた。
「ヘリの音だ・・・空から逃げるつもりか!?」
  要するに、アンダーソンはただの囮だったと言うことである。恐らく、最上階には強盗の頭領と数人の仲間、そしていくつかのバイオガンがあったのだろう。それらをここから運び出すための時間稼ぎをしていたに過ぎないと言うワケである。端から、アドたちとやりあうつもりはなかった、そう言うことなのだ。そうなれば、先程から弾を避けるだけで撃ち返してこない理由が分かる。
「我々の勝利だ」
 ヘリが来たことで、自分達の勝利が確信したと思ったのだろう。アンダーソンは相変わらず暗い口調で勝利宣言を口にする。だが、まだ逃げるのに成功したとは限らないのだ。それに、アドたちと対峙しているアンダーソン本人は逃げることは不可能と言えるだろう。元々逃げるつもりなどないのかもしれないが、アドは最後まで諦めるつもりはない。
「そう言う余裕ぶっこいたセリフは、完全に脱出してから言えっての!」
 勝利を悟ったがためか、それとも時間を稼ぐ理由もなくなったためか、アンダーソンは仁王立ちしながら含み笑いのようなものを浮かべている。そんなアンダーソンに向かって、アドの容赦ない射撃が見事に命中する。ほぼ完全に急所を狙ったアドの射撃を受けたアンダーソンは、仁王立ちをしたままの格好で床へと倒れこんだ。手にしていたバイオガンは床を伝ってアドの足元へと転がってくる。
「くそっ、逃げられてたまるかっての!」
 吐き捨てながら、足元のバイオガンに数発の弾丸を撃ち込む。そして、即座にショウとディリーに習って最上階への階段にダッシュした。


 一方そのころ。リスティたちのもとに向かったギュゼフは、ビルの中をさまよっていた。別に、方向音痴とかそう言った類ではないのだが、リスティたちの居場所が正確につかめないのである。
「全く・・・どうしてGPSにも反応しないんだろ。少なくても、ルーファスくんは持ってたと思ったんだけど・・・」
  リスティはGPSのことを知らなかったのだからはじめから持っていないのだろうが、ウインドは間違いなくGPSを所持しているはずである。ビルに突入する前にGPSのデータは収集しておいたので、ウインドの居場所は簡単に分かるはずなのだがどうにもデータに反応がないのだ。
「まさか、やられちゃったワケじゃないでしょうね・・・。少なくても、アンちゃんだけは生きてて下さいよ」
  アドが言うには5階の踊り場にいると言う事だったのが、その場所にたどり着いてもリスティたちはいなかったのだ。このビルには同じ階にもいくつかの階段が存在しているので、違う階段の踊り場にいる可能性もないとは言えなかったが、アドが上がってきた階段から予測するとその可能性は低いだろう。そうなると、自力でどこかに移動したとしか思えない。
「ん・・・? この人は・・・そうか。始めに突入したと言う人みたいですね・・・・・・死んでますが」
  辺りを確認していると、5階踊り場の端に一人の男が倒れているのを発見して様子を見るがどうやら既に事切れているようだ。先に突入したと言うメンバーの顔は知らないので確信はないが、服装からして間違いなくB-Fogの一員なのだろう。怪しいタトゥーが気になるところだが、いつまでもこの男に構っている時間はない。今は、リスティたちを見つけるのが先決だった。
「とにかく、そう遠くへは行ってないでしょうから、早く探さないと・・・」
 大体の強盗は倒しているはずなので他に潜んでいる可能性は低いとは言え、早めに合流しておくに越したことはない。そうでなければ、自分が単独で行動している意味がなくなってしまう。それどころか、リスティたちを見つけられないと後でショウに何を言われるか知れたものではない。自分にとってもそれは言えることなのだが、リスティを危険な目に合わせるワケにはいかないのである。
「動かないアンちゃんと再会しても嬉しくないですからね・・・」
 言いながら、ギュゼフは腰にかけてある愛用の銃――ベレッタM92Fをいつでも撃てるように右手にしっかりと握って探索を再開した。


 誰もいなくなっただだっ広い空間。最上階ではヘリの音が響いている。恐らく、このままボスたちと数名の仲間はビルから脱出することだろう。思わぬ邪魔が入ってほとんどの数のバイオガンは破壊されてしまったが、数挺のバイオガンは上手く持ち出すことが出来たので、作戦は成功したと言っても差し支えない。この事件をキッカケに、バイオガン販売所の警備はより強力なものになることは間違いないだろう。各地のバイオガン生産工場も厳重な警備が行われる可能性も高くなるだろう。。少なくても、そう簡単にバイオガンを手にすることは出来なくなってしまうことは間違いなかった。
「それにしても・・・」
 つぶやくように男――右耳に真っ赤なピアスをした男は、胸に命中した弾丸を手で受け止めながら、独り言のようにつぶやく。 前もって防弾チョッキを着込んでいたことと、急所には厚手の鉄板を仕込んでいたことが幸いして、命に別状はなかった。だが、正確な射撃により数箇所まともに命中して、血が滴り出ているところもあるが、そのうち血も止まるだろう。そんなことよりも、気になることが一つあった。
「期待以上だったな・・・」
 何かを惜しむような表情を浮かべながら、男はゆっくりと歩き出す。そして、内ポケットにしまってあったもう1挺のバイオガンと、特製の火薬を手に持ち軽い笑みをこぼす。その表情はとても清々しく、何かゴールを見つけたような歓喜の笑みに似ていた。だが、そんな笑みも一瞬のうちに消え真剣な表情に変えると、男は全速力で階段へと向かい、そのままの勢いで下へと急いだのだった。

☆用語集☆
『銃関係』・・・リード射撃、バイオエネルギー、ベレッタM92F

      


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