ミッション4 『新任班長』
第五回

 今日は暑い。何度そう思ったのか分からない程、何度も暑いと感じていた。その暑さは昼を過ぎても変わる事なく、むしろ暑さが増しているのではないかと思わせる。太陽が頭上まで上がってきているために、照り返す日差しは強まる一方だ。雲ひとつない青空は、一滴の絵の具を落としたいほどに同じ色をしている。
そして、今の彼女の心の中はその青空の様に澄んでいた。こんな心の時の事を、上機嫌と表現するのだろう。今にも踊りだしたい程の心は、スキップをしているかの様だ。
「楽しみだなぁ。早くナナミ姉さんと一緒につけたいなん♪」
 彼女が心躍らせて大事そうに抱えている物は、先程手に入れたばかりの『新作の香水』。手提バックに仕舞わずに、わざわざ紙袋のまま抱えているのは彼女らしい。それほどまでに嬉しさで満ち溢れていると言う事なのだろう。
そんな彼女が向かっている場所は、『ヘッダーモール』の中でも品揃えが一番な事で有名な本屋『グッドラック』。ありとあらゆる本が集められており、一見マニアックな専門雑誌もこの店に来ればほとんど並んでいると言うほどである。その為に、様々なマニアがこの店に訪れる為、別名『グッドマニア』とも呼ばれている本屋なのだ。
リスティがそんなマニアックな本屋に向かう理由は一つで、彼女も彼女なりにマニアックな本を買う為に訪れている次第だ。彼女の趣味である香水の本はもちろんの事、アドやショウが好きなオートカー、拳銃の本なども種類豊富に揃えられているのは魅力的な事だ。
「うわぁ、涼しいなー」
 店に入るなり、適度に効いたクーラーが肌を刺激する。汗の所為で少し濡れた服が、少しずつ冷たくなっていくのが身体に伝わってくる。同時に、身体が冷えていくのも感じられる。外の暑さが嘘の様な快適さは、人にとって必要不可欠な存在となっていた。そんな快適さを心地良く思いながら、リスティはまず香水の本が並べられたエリアへと足を運ぶ。毎週購入している専門週刊誌で、最新の香水から、今流行り、これからの時期にお勧めの香水の情報が詰められた本である。人気な雑誌の為に発行数は多いはずなのだが、それでも在庫が常になくなる寸前なのは、この雑誌の人気の高さが窺える。何とか自分の分を確保出来たリスティは、笑顔で週刊誌を手に取る。中身は帰ってからのお楽しみで、決して開くことはない。毎回、これが楽しみでこの本屋に訪れているのだ。リスティの香水好きは、ただつけるだけの楽しみではないと言う訳だ。
「今日は、他にもあるんだよねー」
 小声で一人ごちるリスティは、香水コーナーから、普段は決して向かう事のないコーナーの方へと足を向けていた。リスティが向かうその先にあるコーナーとは。
『火薬専門誌』
 火薬と言っても、種類、用途は多様であり、爆発させるだけが目的ではない。彼女の実家が花火職人の家だけあって、元々火薬の知識は少しだけあったのだが、今回、さらに知識を知る必要が出てきた為に、わざわざ専門誌を購入する事に決めたのだ。リスティの火薬への知識のほとんどは花火に関係する事であり、今、彼女が必要としている知識とは多少のズレがある。今、リスティが必要としている火薬の知識とは、『護身用』の火薬を製作する為の知識であった。ここ最近のミッションにおいて、リスティはことごとく仲間達の足手纏いになっている事は自覚している。さすがのリスティも、そこまで鈍感ではないと言う事だ。先日のK地区でのミッションでは、囮役をしてまんまと犯人に捕まってしまい、さらには得意のはずの水に溺れてしまうと言う失態を犯してしまった。アドにも良く言われる事なのだが、自分の身ぐらい自分で守れないでどうする。そう実感したリスティは、実家に帰ったついでに祖父に火薬について知識を勉強したのだ。だが、それだけでは全ての知識を得られる事が出来ない為に、専門誌を購入するに至ったのだった。
「んー、どれが良いか良く分かんないなー」
 さすがマニアが集まる本屋だけあって、その種類も豊富である。目映りするほどの種類は、知識の浅いリスティにとっては、どれを選べば良いのか皆目見当もつかない。こんな事ならば、普通の本屋に置いてある普通の本を買いに来れば良かったと後悔してしまう程だ。しばらくの間、リスティは小首を傾げながら並べられた多数の専門誌の表紙を眺める。中身を開いて見てみれば良いのだろうが、リスティの性格上それは出来ない様である。傍から見れば、若い女性が火薬コーナーの前で首を傾げているのだから、不思議な光景に映っている事だろう。だが、彼女はそんな人目を気にするよりも、どの本を選ぶべきか悩む方が重要な事のようだった――。

 今日は暑くなる。今朝見た天気予報でそんな事を言っていたのを思い出しながら、彼は自分に集まる周りの視線をうっとおしく感じていた。彼――ショウの格好は、言わずと知れた黒い長袖のシャツ。加えて、シャツの襟を立てている為に、尚更暑さを漂わせる格好をしている。この暑さの中、半袖や袖なしでも暑さを我慢出来ないと言うのに、この男は襟のある長袖シャツを涼しい顔をして着ているではないか。周りの視線が集まってしまうのも無理はない事だ。
 視線を向ける中に若い女性がいると、ショウはわざとその女性の所へ歩み寄って腕まくりしながらポーズをとる。
「どうだい、ねーさん、茶ぁでも飲まねぇかい?」
 いわゆる『ナンパ』と言う行為に、声を掛けられた若い女性はショウの暑苦しい格好を見るなり、目もくれずにその場を立ち去ってしまった。ただのナンパならまだしも、この暑さの中暑苦しい格好で近づかれては、誰でも遠ざかってしまう事だろう。そんな事にも気付かないショウは、肩を竦めながら頭を左右に振る。
「つれないねぇ。せめて口ぐらいきいてくれたっていいようなものじゃねぇかい?」
 言いながら、未だ自分に視線を向けているギャラリーには気にする事なく、ショウは目の前にある自動ドアを潜った。
中に入ると、寒いとさえ感じるほどの冷気がショウを襲い掛かる。基本的に、暑さには強く寒さには弱いショウは、クーラーや扇風機をあまり好ましく思わない。適度に効いているのならまだしも、何の考えもなしにひたすら冷やしているだけの場所は、うざったいとさえ思えて来る。幸い、この場所は適度な温度が保たれており、入った瞬間は冷気に襲われるような感覚がするが、長居しても寒いと感じる事はない。これは、この店の店長の趣向であり、あまり温度差を大きくしてしまうと、本を傷ませてしまう可能性があるために気を使っているのだ。
「よぉ。いつものお願い出来るかい?」
 店の自動ドアを潜ったショウは、一直線にレジカウンターに向かい、カウンター越しに店員へ声を掛ける。呼ばれて、店員はショウの方へ振り向くと、ニコやかに笑顔を振り撒く。
「あ、いらっしゃいませ、ショウさん。いつものですね。もちろん、取り置きしてありますよ」
 元気にそう応えたのは、この本屋のバイト生のレルヤ・シャークである。まだ大学生だと言う彼女は、欲しいオートカーを買う為に地道に働いている努力家である。自分と同じ雑誌を購入したショウを見て、初対面にも関わらず思わず声を掛けてしまったのが知り合ったキッカケ。以来、毎週ショウの分の雑誌を取り置きしており、彼が買いに来るのを楽しみに待っている健気な女性だ。
「それにしても、今日は暑いですよね。ここが図書館感覚ですよ。皆、涼しむついでに立ち読みしてるんですから」
 カウンターの下に取り置きしてあった雑誌を取り出すと、レルヤはざっと店内を見回してそんな事を言う。言われて見れば、今日はいつも以上に店内に人が集まっているようである。見たところ、実際に本を購入する客ではなく、ただ涼しむついでに立ち読みをしているような客ばかりである。幸い、この本屋はそれほど立ち読みに対してうるさくない店である為に、それを注意するような事はないのが、尚更たまり場にしてしまっているのかもしれない。
「今週号は、ついに新車の情報が載ってますよ。ショウさんお待ちかねの情報なんじゃないですか?」
 本を取りだしながら、レルヤはニコやかに今週号の最新情報を提供する。もちろん、実際の情報は口には出さず、事前情報を与えるだけに留まる。そうでもなければ、初めて情報を知る嬉しさが半減してしまうからだ。ただ、そう言った事はあまり気にしない性格のショウにとっては、どちらでも良い事だったりするのだが。
「そうかい。そいつぁ、楽しみが一つ増えたな。それと、この前言ったのもあるか?」
 ショウは適当に相槌を打ちながら、付け加えるようにそんな事を口にする。レルヤは、そんなショウの言葉に呆けた様な表情を浮かべてみせる。その顔を見て、この女性がこの前言った事を忘れている事に気付くショウ。だが、ショウは表情を変える事なく、自分の求める本が置いてあるコーナーの方を顎でシャクって見せる。すると、その方向で思い出したのか、レルヤは顔を真っ赤にしながら大声を出す。
「あー、忘れてました! ごめんなさーい。今、取ってきますね」
 言うが早いか、レルヤはショウが顎でシャクった方へ小走りに急ぐ。その後姿を見ながら、一人苦笑を浮かべるショウ。彼女は悪い子ではないのだが、忘れやすいのが玉に瑕である。
「別に、あんたが取りに行かなくても良いじゃねぇかい」
 小声でそんな事を呟いたショウは、不意に視界の端に見覚えのある人物が映ったのを見逃さなかった。瞬間、彼はその人物が映った方へと視線を向けて、先程まで表情を変えなかった彼の眉が、僅かに動きを見せた。
「こいつぁ、運が良いじゃねぇか。こんなところで、あいつに会えるなんてな」
 そう言うショウの視線の先には、ポニーテイルを左右に揺らしながら、何かの本を選んでいる一人の女性が映っていたのだった――。

「どうもありがとうございました!」
 背後にそんな言葉を受けながら、店を出ると、予想以上の熱気が身体全体に襲い掛かって来る。肩まで腕まくりした彼のTシャツは、一瞬にして汗で滲んできてしまう。
「にしても、こんなに早いとは思わなかったな。確かに、腕だけは確かみてーだ」
 ドアキーを回しながら、思った以上の早さで車の修理が完了した事を感心するアド。カールに貰ったスポーツジムの優待券を使って、ゆっくりとトレーニングをしていたアドだったが、数時間後にベックがわざわざ呼びに来たのだ。修理が完了したと言うその呼び掛けに、さすがのアドも驚きを隠せなかった。少なくても夕方頃まで掛かるつもりでいたアドは、今日はこのスポーツジムで思う存分トレーニングをするつもりでいた為に、昼を少し過ぎた頃のベックの登場は意外過ぎたのだ。
「お、エンジン音もなんか良くなってねーか?」
 ドアを開け、シートに腰掛けてエンジンをかけると、修理する前よりもエンジン音が響いている事に気が付くアド。確か、アドの依頼はエアコンの修理と簡単な整備だけだったはずだが、必要以上に手を加えられているようだった。だが、決してその整備には無駄がなく、アドの癖や好みを忠実に再現しているのである。アドからは何も言っていないにも関わらず、車の各パーツの使用具合で彼の癖や好みなどを一瞬で見抜いたのだろう。
まさか、ここまで腕があるとは思っていなかったアドは、紹介してくれたギュゼフに感謝をしなければならない。ギュゼフ自身、色んな物の改造が趣味の為に、そう言ったところから通じた知り合いなのだろう。カールは、そんな知り合いの中でも、一位二位を争う腕の持ち主に違いない。
「今度ギュゼフに礼言わなきゃいけねーな。ま、礼だけで、物は出せねーけどな」
 言いながら、アドは数時間前よりもだいぶ軽くなった自分の財布にでこピンをしてみせる。腕は良いのだが、その分代金もそれなりに掛かるのは、致し方のない事である。仕事量と比べれば、半額以下になっているとは言え、アドにとっては痛い出費には違いない。修理には満足がいったが、財布にとっては不満足な結果になってしまったようだ。
「ま、仕方ねーか。この仕事を考えれば、安いもんかもしれねーな。よし、久々にちょっと遠くの射撃場までドライブがてら行ってくっか!」
 好調な駆け出しに表情を光らせながら、アドは軽快なハンドルさばきで交差点を左折してみせる。
「おー、そうだよ。肝心な事忘れてんじゃねーか。エアコン、エアコン、っと」
 交差点を曲がったところで、今回修理を依頼した本来の目的の事を思い出すアド。まるで、車の改造を依頼しにいったかのような錯覚に見舞われていたアドだったが、本来の目的はエアコンを治す事だったのだ。その肝心な物を試してみないで、満足していては何も意味がないではないか。
そう思ったが早いか、アドはエアコンのスイッチを入れてみる。すると、次の瞬間にはエアコン口から涼しい風が流れてくるではないか。車全体の整備だけでなく、依頼したエアコンの修理もばっちり治っていた事で、アドの機嫌は最高潮に達していた。
「んじゃ、飛ばして行くとすっか!」
 思わず開けてしまっていた窓を、手動のレバーで閉めてから、アドはハンドルを握って目的地へと軽快な走りで向かったのだった――。

 アド達が住んでいるL地区は、比較的栄えている地区の為に、何をするにしても困る事はほとんどない。それほど欲を出さなければ、大抵の施設が揃っているのがL地区だ。
だが、人間と言うのは、いつまでも同じ環境が続くと、さらにそれ以上の物を求めてしまう存在。それ故に、いくら揃った施設が存在しようとも、他の違う何かを求めてしまう欲に満ちた存在なのだ。
ここN地区は、L地区のすぐ隣の地区で、この地区もL地区と同様に、比較的栄えている地区に位置する場所だ。L地区の様な多目的スタジアムは存在しないが、それ以外の施設は大抵揃っている。中には隠れた名店がいくつか存在しており、マニアにはたまらない掘り出し物が手にはいるショップなどが点々としているらしい。
ヘッダースタジアムに隣接されている地下鉄を利用すれば、ほんの20分もないでN地区の中心地まで来れる為に、わざわざここを訪れる者も少なくはない。本屋で偶然出会ったこの二人もまた、例外ではなかった。
「いや、それにしても、あんなところでリスティに会えるとは思ってもなかったぜ。しかも、あんな場所にいるなんてな」
 ケラケラと笑うのは、この暑さの中でも平気で長袖を着用している男、ショウ・カッツである。ショウがレジカウンターの前に立っている時に発見したのは、今彼の横に立っているポニーテイルの女性、リスティである。あんな場所と言うのは、リスティが火薬コーナーの場所に立っていた事を意味する。彼女の好きな香水のコーナーにいるのならば頷けるが、彼女らしからぬ場所にいたのを発見した時、ショウは自分の目を疑った。ポニーテイルのリスティ似の女性なのだと思ったのだが、その幼稚な動きと体型を見れば彼女だと言う事は一目瞭然。自分にとって大事な存在を、見間違えるはずがない。
「うん。今日はたまたまだよー。ちょっと、今度あたしも護身用の武器を作ろうと思ってねー。自分の身ぐらい、自分で護れなきゃ、ってね」
 言いながらウインクするリスティの姿は、目の前の男を一瞬にして魅了するほどの力を持っていた。いつもとは違った香りがする彼女もまた、彼にとっては魅了される要素の一つである。
「護身用の武器もそうかもしれねぇが、やっぱり銃の扱いに慣れておかないといけねぇよな」
 つい最近、リスティは自分専用の銃を手に入れる事が出来た。たまたまウエストがL地区支部の武器庫を整理していた時に発見した銃だが、彼女の小さな手にも馴染む扱いやすい銃。
ワルサーPPK。
 リスティの様な小柄の女性の手にもすっぽりと入ってしまうほどの小さな拳銃で、主にスパイ行為をする時、携帯するのに便利な小銃である。あまり大きな銃を扱う事の出来ないリスティには、もってこいの銃である事は間違いない。威力はさほどないのだが、リスティにはこれぐらいの銃が一番扱いやすいだろう。
「前の約束通り、今日はまた銃の稽古をしてやろうじゃねぇかい。前の場所は、また邪魔が入るとしょうがねぇからな」
「すっごーい。前の場所よりもたくさんあるんだねー」
 後半の言葉は小声で言ったために、リスティには聞こえていないのかもしれない。彼らの目的地である場所に着いた途端に、リスティは歓喜の声を上げる。1フロアが全部射撃場になっているこの場所は、ヘッダースタジアムにある射撃場とは比べ物にならない広さを誇っている。加えて、ヘッダースタジアムよりも豊富な種類の的のコースが用意されている為に、様々な用途に合わせた練習が出来ると言う訳である。
「まずは個室で個人レッスン、ってか。受付済ませてくるから、ちょっと待ってな」
 デートとは程遠いイメージの場所だが、リスティは一人はしゃいでいる。場所はともあれ、相手が喜ぶ場所に連れてきた事は、決して間違った行動ではなかった事の証。ショウは、はしゃぐリスティを横目で見ながら、胸中では嬉しさを隠せない。相手にその気がなかったとしても、まずは順序を踏んで事を運ぶ必要がある。今のショウは、妙に策略的な事を浮かべながら行動している。この行動が、吉と出るか凶と出るかは、今後の彼の行い次第なのかもしれない――。

 L地区のメイン道路を抜けると、隣街であるN地区が見えてくる。車で行けばそれほど時間も掛からず行ける為に、夕方近いこの時間でも夜までには家に戻る事が出来るだろう。N地区に入りしばらく車を走らせると、ほどなくして高層ビルが正面に見えてくる。これは、このN地区の中心地である『ガットビル』。L地区の『ヘッダースタジアム』に対抗して建てられただけあって、スケールとしてはこの『ガットビル』の方に軍配が上げられそうだ。だが、それは利用する者によって異なり、必ずしも『ガットビル』の方が栄えているとは限らない。
「この時間でこの車の量、か。ま、妥当な線なのかもしれねーな」
 いつもこの時間ならば地下駐車場は満車になってしまっており、3階から5階にある駐車場まで行かなければいけない。だが、今日に限っては、地下駐車場にも何台かの空きがあるようだった。今日が平日と言う理由もあるのかもしれないが、それにしても客の足が少ないのはこの暑さの所為でもあるのかもしれない。
 何であれ、地下駐車場に愛用の青いオートカーを駐車したアドは、エレベーターを利用して目的の階へと上昇して行く。彼の目的は勿論、37階にある射撃場である。いつもと違った場所で射撃をすれば、また違った発見が出来るかもしれない。
「やっぱ、こっちの方がデカイな。ま、デカきゃ良いってもんじゃねーけどな」
 そうは言いながらも、アドの両手には愛用の銃が握られており、受付前からやる気に満ちている事が窺える。右手には黒光りするSOCOM、左手には独特の形をしたルガーP08。ともに、彼のお気に入りの愛銃である。以前、リスティから『譲り受けた』シルバーモデルのデザートイーグルは、今でも部屋のテーブルの上に飾って置いてある。
「さて、と。受付済ませて、早速撃ってみるか……ん?」
 とりあえず、両手に持った銃を懐のホルスターに仕舞い込むと、アドは受付の方へと歩みを進める。すると、その受付の前に知った顔が立っている事に気が付く。この暑さの中、黒い長袖を着たその男の少し離れた場所には、これまた見知った顔が呆けた顔をして立っていた。どうやら、その二人はこれからこの射撃場で射撃の練習を行うようだった。そもそも、このフロアで受付をしているのだから、射撃以外の目的で訪れる訳はないのだが。
「さて、どうしたもんか」
 言いながら、アドは受付に背中を向けてから肩を竦めて呟いてみせる。この場には自分しかいない為に、要するにそれは独り言であって。どうするも何も、元々の彼の目的を考えれば、このまま受付に行く以外に答えはなくて。
だが、彼は肩を竦めた後、受付を背中にして大また歩きでその場所を離れて行く。
「あいつなら……任せても良いかもしんねーな」
 アドは、再び誰にともなく独り言を口にすると、目の前にあるエレベータのボタンを押し、数秒後に到着した下りのエレベータの扉を潜ったのだった――。

      

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